風渡12「流れの芸術家を支えた父」

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部落へは流れの芸術家、彫刻家と絵師が時々やってきた。この部落に来る芸術家はこの部落に入る前に当時顔役であった私の父、吉雄をまず訪ねてくる。酒好きで、情にもろく、人助けに熱心で、美に若干の理解があった父は、作業場と食事や宿泊などの世話をしてくれる家選びや発注してくれる人選びを、親身になって面倒を見てやる。たとえば彫刻家の場合何を彫って欲しいのか、発注者の希望が集まると、必要な木探しに入る。伐り出された欅の丸太は、彫刻家が宿泊することになった家の日当たりのよい場所に設けられた作業場の筵の上に据えられる。荒削りから始まって、何を彫っているかが分かるようになり、細部が整えられ、布袋様や仏像が次々に完成する。冬休み中の子供たちは恰好な冬の楽しみを見つけて、毎日作業場に通い終日作業を眺め暮す。手品のように完成する作品を見て、感嘆の声を上げ、感動する。注文がすべて完成すると、彫刻家は報酬を米で受け取って妻子に送り、新しい仕事を求めて隣の部落に移って行く。掛け軸を描く画家、絵や陶磁器の販売人、整体師や鍼灸師など、中にはいかがわしい人物もいたが、芸術や文化は長い間こういう形で農山村に入ってきた。農山村の人々は芸術作品に心や体を癒され、流れの芸術家たちはその対価を米で得る。そういう相互扶助のシステムが当時は機能していた。
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